cogu/小具・中島裕基さん 中島雅子さん インタビュー
使い手に限りなく近い立場で。
作家ではなく、職人が作る木の道具
聞き手・文 ヨリフネ・船寄真利
cogu/小具は「作家」ではなく、「職人」だと思っています。
つくるものは「作品」ではなく、「道具」だと思っています。
cogu/小具のホームページに書かれたこの言葉が、私にとってはとても印象的でcogu/小具の道具を扱うとき、ふと頭の中をよぎります。
日常的に使いやすく、普段の暮らしに馴染む cogu/小具の器やカトラリーは、確かに“道具”と言った方がしっくりきます。そして、それらを作る中島裕基さん、雅子さんおふたりのお人柄も見えるようで好きな言葉です。
職業柄、作り手と話す機会も多く、そのような考えを持つ方も少なくはないのだけれど、この「作り手=作家」という言葉がなんの疑問もなく使用される今の世の中において、はじめに「作家ではない」と宣言する方は非常に珍しいと思います。
職人が作る“道具”とは、一体どういうものなのか。cogu/小具の成り立ちや制作に当たっての思い、そしてヨリフネでの展示について伺いました。
編集:船寄洋之
photo : 中島雅子、船寄真利
photo : 中島雅子
もう壊さないで済むものを
——まずは cogu/小具(以下「cogu」)をはじめたきっかけを教えていただけますか?
中島裕基(以下「裕基」):coguを始める前の僕は、展示会や美術館の内装を手掛けていたり、店舗什器の家具を作ったりしていました。ただ、それらは期間が決まっている中で使用されるという特性上、ものを作っては壊すということも多く、正直それを繰り返すことが嫌で嫌で仕方なくて。壊したものや、まだ使える端材が捨てられることに対しても違和感があったから、「自分でそのサイクルをどうにかできないか」と思うようになりました。
そういう思いで、木の端材でお皿やカトラリーを作りはじめたのがcoguのスタートですね。2008年のリーマンショックがきっかけで、「このままで本当によいのか」という気持ちが一層強くなり、2012年には仕事も辞めて本格的に活動していきました。コツコツと作品を作り、知り合いのお店に行っては「ワークショップをさせてください」と言ってまわって、開催して。そうやって、coguとしての活動が徐々に広まっていきました。
中島雅子(以下「雅子」):当時は「もう壊さないで済むものを作りたい」とずっと言ってたよね。
裕基:そうそう。大抵、家具に利用できない大きさの端材は薪になってしまうんです。そういうのを現場で見てきたから、ずっともったいないと感じていて。
雅子:内装の現場は大胆なほど大量のゴミを出していましたからね。どれも、まだまだ使える材料なのに。私たちはそういう端材からお皿やスプーンなどを作って、これくらいは出来るというギリギリのところまで使うようにしたんです。それもあって、うちの工房から出る端材はだいぶ減っていると思います。
裕基:とことん使い切って、これは誰がどう見ても無理だなってサイズまで使い込んだものしか捨てないからね。
変わらない価値観 不良品ではなく個性
——coguは数年前から球体のようなアート作品や、木の節や割れを大胆に取り入れた道具も少しずつ増えてきたように思います。それってお二人に何か心境の変化があったのかなって思うのですが、その点はどうですか?
裕基:いえ、心境の変化ではないんです。
雅子:もともと、どちらも道具として自分たちが好きなものなんです。球体は昔から好きで集めているんですよね。
裕基:木の節や割れに関しても、実は、coguをはじめた頃はそれらを入れたお皿も作っていました。そもそも僕はそういうのも好きだったので。でも結構な確率でお店の方から弾かれてしまい、そういうものはこちらで保管していました。ところが、ここ数年はそういう節や割れのような特徴のある素材も受け入れられる風潮になってきたので、ちょっと遊び心もプラスしながら再び作り出したという感じですね。
雅子:そう。以前はそういうものって不良品として扱われてきたけど、今はむしろ求められるようになりました。先ほど「端材も最後まで使いたい」という話をしましたが、お皿などを作る際に節を入れたままにすることで、本当に余すところなく最後まで素材を使うことが出来るんです。最初からそういう意識を大事にしていたけど、そこを前面に出しても受け入れてくれる人が少なかった。でも最近は、使い手が節や割れを嫌がらなくなったので、こうやって表に出せるようになりました。
とは言え、もちろん状態によっては穴が空いてしまっているのもあるから用途が限られてしまうものもあるし、今でもそれをあまりお好きじゃない方もいるから、バランスよく作っています。
——coguが変わったのではなく、まわりの意識が変わっただけだったんですね。
雅子:むしろ今は「節とか入っているお皿ないですか?」って言われるくらいです。
裕基:ただ、ものすごく大きな板でも、節が取れる部分ってお皿にすると二枚分くらいしかないんです。今はそういう特徴のある木材を探す方が大変ですね。
使う立場の方が大きい
——以前、雅子さんはインスタグラムに、おにぎりとお漬物をcoguのお盆にのせた写真を投稿されていましたよね。私は、使いやすさはもちろん、そういったなんでもない日常のご飯や風景を素敵にしてくれるところがcoguの道具のよさだなと思っているのですが、ご自身の考える“coguらしさ”ってどんなところですか?
裕基:口で説明するのは難しいけど、人間臭さを残したつくり方が特徴なのかもしれません。大きさや深さなど彫り跡をあえてランダムにつけているのもそのせいですね。
雅子:ラフな感じというか、作り込みすぎない感じ。そんなに華美じゃないものだよね。
——coguの道具が生活に馴染むと感じられるのは、きっと人の気配を感じるからでしょうね。他にも道具を生み出すときに、気をつけているポイントはありますか?
裕基:新しい道具を作るときは、いつも雅子さんが「こういうのがほしい」とヒントをくれるんです。そこから僕が「こういうものかな」とイメージして試作品を作る。それで一回でOKが出るときもあれば、僕がむくれるまで何度もダメ出しをされながらやり直すこともあります。しまいにはほとほと嫌になるんですけど、そういう時に限って職人気質でつい負けず嫌いな性格が出てしまい、こうなれば意地でも“うん”と言わせたくなる。だから頑張っちゃうんですけどね(笑)。
——悔しい感情は大事ですからね(笑)。ということは、新作の最終判断は雅子さんがされるんですか?
雅子:それはお互いですね。「この木はこうでしか彫れない」というような技術上の意見もあるので、二人で話し合いながらいちばんよいところを探っていきます。ただ、私たちには“使う方の立場が大きい”という共通認識がありますね。
——使う方の立場が大きい、ですか?
裕基:私たちは常に使い手の立場に立ってものを作るという意識を持っているので、自ずと作り手の僕ではなく、使い手である雅子さんの意見を尊重することになります。作り手の僕としても決して自分の作った道具だからと、「どうだ、俺の作ったものはすごいだろう」って見せつけ、使い手を無視したいとは思わない。それは以前、内装を手掛けていた頃にすごく感じたことでした。
当時、僕はデザイナーが考えたデザインに沿って家具を作り、店舗などに納めていました。デザイナーはデザイン先行でアイデアを出すことも多いから、こちらから見れば「これだと強度の問題で絶対に壊れる」という箇所がどうしても出てきてしまって。だから僕が「少し手直しして、こういう風にしてあげたら強度もデザインもよくなりますよ」と提案するんだけど、デザイナーは「それは私のデザインじゃないからダメだ」って受け入れてもらえない。でも、そういう家具に限って実際にお店に並ぶと、指摘していた箇所が壊れて、結局僕が直しに行くことになってしまうんです。
——はじめから壊れると分かっていたようなものですからね。
裕基:そういう経験から、やっぱりお客さまが使いやすいものじゃないとダメだと実感しました。お客さまが使いやすく、毎日テーブルに並ぶものを作らないと意味がない。そういう理由もあって、coguの道具を作るときは、いつも使い手である雅子さんが意見をくれるんです。
——そういうことを伺うと、よりcogu は二人で一つなんだなって感じます。
雅子:展示会に一人でいると、気づいてもらえなかったりすることがありますからね(笑)。二人で一緒にいると「coguさん」って声かけられるけど、一人だと「なんか見たことある人だけど…」って感じるみたいです(笑)。
——やっぱり二人で一つ、なんですね(笑)。
使い込むほど本来の姿へ近づく
——6 月 18 日(金)からヨリフネで coguの展示がはじまりますが、今回はどのような作品が並ぶ予定ですか?
裕基:和でも洋でもなく、お盆にもなり、お皿にもなり、敷板にもなる。そうやって、どちらでも転ぶようなものですね。coguの道具はそういうものが多いので、僕たちが用途を決めるのではなく、お客さまが想像しながら好きなように楽しく使ってほしいと思っています。
雅子:coguの道具はどれも奇をてらって作ってはいないので、大体のお家には馴染むようなものだと思うしね。それに加えて、今回は2種類の新作も並ぶ予定です。
裕基:その一つのオーバルのお盆は裏もきれいに彫っているので、平らな面がほしい人はひっくり返して使ってもいい、というか、むしろ使ってほしいですね。とにかく coguの道具は自由に使ってほしいから。でも、こういう発想ってなかなか思いつかないから、お店の方にはぜひそれを伝えていただきたいですね。
——ときどき、売り手の私が作り手の意思に反した勝手な使い方をお客さまに提案していたらどうしようって思うこともあるけど、こうやって作り手から許可を得たので、自信をもって自由に勧められます。
雅子:もう一つ、私としてはしまい込まないで、たくさん使ってもらいたい。身近に積んであるくらいで、パッと出してサッと使ってくれるくらいのものであってほしいと思っているんです。
——確かに、木工製品はお手入れが大変で気軽に使えないというイメージをお持ちの方がまだまだいるように感じますからね。お客さまのなかには coguの道具を大事にするあまり、「油分などのシミがつくのが怖くて、まだ乾き物しかのせてない」という声も耳にするくらいなので。
雅子:そうなんです。よく「まだ大事にし過ぎて使えていない」と言われることもあるけど、こちらはむしろクタクタになって修理に出すくらい使ってもらいたい。coguの道具はお手入れもせずにガシガシと使いつづけたあとを想像して作っているので、そのシミがついた様子も見てみたいくらいです。
販売するときはオイルがついているから、その後の様子を想像できにくいかもしれないですが、お手入れしないなりにカサカサの状態になってちょっと毛羽立ったり、そこにブルーベリーのシミがついたり、私たちはそういう雰囲気がすごくいいなと思っていて。実を言うと、私は出来立ての雰囲気ってあまり好きじゃないんです。「ああ、オイル塗っちゃった」と思うくらい。
裕基:coguの道具は、使えば使うほど本来の姿に戻っていくと思い作っているので、たまにオイルのメンテナンスをしてあげる程度で十分なんです。毎日使っていけば自然と水分や油分が染み込んで強くなるから、むしろ使うことでメンテナンスフリーになるというか。
雅子:「こんなに汚く使っちゃってごめんなさい」っていうくらいの方が私たちの目には素敵に映ります。だから雑に使うくらいでいい。お客さまには、使い込んだ様子を想像して手に取ってもらえるとうれしいですね。
——そう聞くと、より安心して使えますね。
裕基:それと、もし使い込んで、割れたり欠けたりしたら、出来る限り修理するので僕のところに送ってほしいです。使い込まれたものが届くと、大事に使っていただいているんだなあという気持ちも一緒に伝わるので、こちらも大事にそれを直そうと思えるんで す。
雅子:もし割れてしまった方がいたら、そのかけらは捨てないで一緒に送ってほしいですね。ほんのちょっとしたかけらがあることで、それをくっつけてきちんと直せるので。時間はかかりますけど。
裕基:そうそう、かけらを捨てちゃったという場合が一番困るんです。かけらがないと、かたちを整えるためにその分の木を削るので、多少小さくなったり、かたちが変わってしまう。それでも使えるように直しますので、お客さまには「メンテナンスも含めて全部面倒見ますよ」って伝えてもらえるとありがたいですね。
取材を終えて
coguの道具は使い込まれた姿を想像して作る。その言葉を聞き、店頭に並ぶ道具たちは、二人にとって本当の意味での完成品ではないんだなと感じました。毛羽立ち、シミがついて、ときには割れる。そうやって暮らしと共にした年月がお皿の上に積み重なり、二人が思い描く道具が完成するのだと。そう考えると、coguの二人は使い手に最後の仕上げを託しているのかもしれません。
「使い手とともに完成させる」
そんな新たな一面に気付けた coguの道具。また一つ、選びたい理由が増えました。
cogu/小具
1969年 札幌生まれ
長く店舗内装・家具職人として働き、その傍ら2008年よりcogu /小具としての活動も始める。2012年より本格的に始動、現在に至る。
Instagram https://www.instagram.com/___cogu/
cogu/小具 道具展
2021年 6月18日(金)〜 6月22日(火)
18日(金)19日(土)11:00-18:00
事前予約制
20日(日)-22日(火)12:00-18:00
フリー入店
会場:器とギャラリー・ヨリフネ
神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101