小林耶摩人さんが作る器の良いところは、料理を盛った途端、水を得た魚の様に活き活きとしはじめるところだ。レストランのような食事、というよりは街の洋食屋さんやおばんざいのような家庭料理が似合う。

 

ぱっと見は控えめでおとなしい器。派手さはないけれど、料理や食事が好きで、なんでもない日常の楽しみ方を知っているような人たちは、この器の奥からじわじわと滲み出てくる魅力に気づき、そっと手にとる。

 

小林さんは自身の器についてこの様に記している。

「使い手が日常的に手に取って使いやすい器、それは普段あることを意識させず、ごく自然にいつもの場所にあって、いつものように料理が盛られ、いつものように仕舞われていく…そのような器をと考えています」

 

まさにその言葉を具現化した器で驚いた。頭の中にあるイメージや抽象的な説明を表に出すのはすごく難しいこと。それをそのまま器として形に出来ることも小林さんの凄さだと思う。

作り手の小林さんは1983年生まれの37歳。お会いすると、今時のお兄さんという印象で、年齢もまだ作り手の中では若い。そんな彼が、この様な滋味深い魅力の器を作るに至ったことにすごく興味を持ち、経緯をずっと知りたかった。

 

「僕にとって器は、どちらかというと脇役です。主役である料理が引き立つようにという大きな前提の下で作っています。アートではないので、主張や個性が強すぎず、かといって存在が無いわけではない。そして流行にとらわれることなく、何年、何十年と人々の生活の片隅にある、そんな生活道具としての器を作りたい。

 

自分にとっての良いものとは、日常に溶け込んで無意識にそこにあることや、なにも違和感がないこと。理由が何故かわからなくても、言葉で説明出来なくても、直感的にやっぱりこれ何か良いよねと、ふとした瞬間に気付かせてくれるものです。

 

自分の作る器もそのようなものであれば良いなと思います。」

 

父親が陶芸をやっていることもあり、父親が作った器でご飯を食べることが日常だった小林さん。手仕事の器が身近にあり、気軽に使える存在だった。あくまで器を食事を盛る生活道具として捉え、日常に溶け込むものを作りたい、と話す背景には、もしかしたらこのような原風景があるのかもしれない。

今、小林さんが制作しているのは主に粉引、黒釉、灰釉の3色。伝統的な釉薬の中で特に好きな釉薬を自分なりの解釈で作ってみようと思ったことが始まり。

「形はキリッと簡素かつ端正に。だけど陶土を使うことで出てくる土特有の柔らかい雰囲気や、ザラッとした手触り感や温かみといったギャップを意識しています」

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自分は料理を盛るための器として作っているけれど、選んでくれた方が自由に使って欲しいと話す小林さん。こういう使い方もあるんだと逆に気付かされることも。

 

「料理を盛っても、植物を活けても、装飾品を入れてみても、極論ただ飾っておくだけでもいい。だからこそ器を置いておくだけでも様になるような佇まいやちょっとしたニュアンスを意識しています。

それは横から見たときのフォルムであったり、器内側のラインであったり、高台の目土跡であったり。その細部ひとつひとつを丁寧に積み上げていくことが全体を作っていくのだと思っています」

当初、小林さんは話すのが苦手と伝えてくれたにもかかわらず、なんとか言葉を引き出したい。そう思ってメールや電話でじわじわ質問していったのだが、途中小林さんが言った言葉を思い出してハッとした。

「自分にとっての良いものとは、理由がわからなくても、言葉で説明出来なくても、直感的にやっぱりこれ何か良いよね、ってふとした何気ない瞬間に気付かせてくれるもの」

 

そうだ、そもそも小林さんの器はそういうものであり、言葉で語るものはなかったのだ。そこから聞くことをやめた。

 

小林さんの器は使ってこそ、より良さが増す器。料理を盛る瞬間、器が輝きはじめるあの光景に毎回心がときめく。私がこうして語るのではなく、是非たくさんの方に手にとって感じていただきたいと思う。

文・写真 : 船寄真利

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