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utopianoさん・小菅幸子さんインタビュー

​ふたりだからこそ描ける景色

​聞き手・文 ヨリフネ・船寄真利

本展は2019年に開催したutopianoさんと小菅幸子さんによる「flâneur - 遊歩者- 」の2回目となる二人展です。前回の続きではなく進化しているという意味を込めて「ver.2」と付けさせていただきました。

 

ブローチがメインの作品である小菅さんですが、前回の展示では陶板を、今回は植木鉢をメインにutopianoさんの布花との共作、「ポワロのブローチ」など、既存のものとは違った新しい作品にチャレンジされています。

 

私自身、非常に贅沢な内容の展示だと感じられるのは、おふたりが掛け合わさることで、今までとはまた違った魅力をそれぞれに見ることが出来るから。そしてそれらは互いの信頼関係から生まれた内容だと思っています。展示のことをより深く知り、楽しんでいただくにはおふたりの関係性から知っていただくことが不可欠だと思い、utopianoさんと小菅幸子さんにおふたりの出会いから今回の作品が生まれた経緯についてお話を伺いました。

 

編集:船寄洋之

photo : Maya Matsuura(一部除く)

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photo : yorifune

痛みも楽しみも共有できる関係

——そもそも、おふたりはどんなきっかけで知り合われたのでしょうか。

幸子:昔のことすぎてはっきり思い出せないですね。でも、名古屋にあるMyshica Antik (ミュシカ アンティーク)というお店が昔から大好きで、展示のDMがいつもすごく素敵だったんです。utopianoさん(以下「utoさん」)がそこで展示される時のDMも、ものすごく素敵で。手に取った瞬間に「これは行きます」って迷いなく思ったのを覚えています。何でも実物を見に行かないと本当の質感とか魅力は体感できないから、「大好きなミュシカさんの空間に、utoさんの布のお花たちが並ぶところを絶対に見ておかなければいけない」という使命感のようなものが芽生えて、展示に足を運びました。

 

utopiano : 私も以前から(小菅)幸子さんのことは知っていました。ミュシカさんの展示に来てくれたのは知っていたから、会いたかったなってずっと思っていて。それで初めてメッセージを送ったんですよね。

 

幸子:起きている時間帯が似ていたこともあって、すぐ返事が返ってくるのも大きかったかも。メッセージのやりとりから少しずつ仲良くなっていって、一度ふたりで画家のジョルジョ・モランディ展を観に行ったんです。あの時はふたりですごく長い時間歩いて、いろんな話をしたよね。

 

utopiano : そうそう。実際に会って長い時間をかけて話すことが、ものすごく大事なことだと実感して。朝から夜の8時くらいまで喋りっぱなしでそこまで話すとお互い隠すことがなくなって、丸裸の心でぶつかっているような感じ。そんな時間を持てたことがすごく大事だったと思います。

 

——おふたりの会話には芸術の話などで共感することも多くて、好きなものがすごく似ているのかなって思っていました。そんなところからお互いに触発される部分があるんじゃないかと思っていたのですが、実際はどうですか。

 

utopiano : 好きなものは似ているんだけど、それだけじゃなくてもの作りをする時に直面する壁とか、「これはどうなんだろう?」と思い悩むことが似ている気がします。

——それは制作だけではなく、気持ちの面もですか?

utopiano : むしろ気持ちの方が大きいかも。

 

幸子:たしかに。芸術や映画の話はutoさんの方が群を抜いて知識があるから、utoさんに教えてもらうことの方が多いけど、気持ちは似てるなって感じますね。

 

utopiano : モランディ展で幸子さんと長く話した時から「感じていることが近いかも」と思っていました。好きなものが似ている人は少なくないんだけども、「こういうところが苦しい」というところまで分かり合える人は少ないと思う。あまり表には出さないけれど、制作している中で悩むところもやっぱりあるから。

 

幸子:でも、基本的に私は何も考えずに生きてるけどね(笑)。

 

utopiano : 幸子さんはあまりつらいことは言わないよね。たしかにそういう苦しさは全体で考えると1パーセントにも満たなくて、圧倒的に嬉しいことの方が多い。でも、時々チクッと感じる小さな痛みを幸子さんとは共感しあえるような気がするんです。普段は楽しい会話をしている方が多いんだけれど、そんな気持ちも分かり合えた上で一緒に楽しいことを共有できる稀有な存在なんだと思います。

 

幸子:だから今回も一緒に楽しいことが出来たよね。utoさんは「こんなことしたら?」ってアイディアをくれたり、「出来るかな……」とちょっと不安に思ってることを後押ししてくれるから、それで色んなことを形に出来たことは大きいですね

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ふたつが並んではじめて表れる魅力

——今回の展示は鉢と布花のコラボが特徴だと思うのですが、この組み合わせにされたのはどうしてなんですか?

 

utopiano:はじめは花瓶でもいいなって思ったんですけど、私は土の中に隠れちゃう部分も含めて好きで、作品でもよくその部分を表現するから根っこや球根を作ったりしていて。幸子さんの陶器の鉢だったら、土を入れて使うだけじゃなくて中が見えていても可愛いんじゃないかなと思ったんです。鉢は「植物を育てる」という用途のあるものだけど、使うことで割れたりとか心配もある。幸子さんの鉢だったら部屋の中に置いて眺めていたいって思う方もいるかもしれない。布花だったら部屋の中でずっと咲かせていられますからね。

 

幸子:花瓶はいろんなところで素敵なものがあるけど、植木鉢って種類が少なくて欲しいと思うような素敵なものになかなか出会えないんです。それで自分で作りたいなって思うようになって、以前からたまに作っていました。

去年はコロナ禍で時間があったから、友達に配ろうと思ってたくさん鉢を作ってみたんです。それは結局失敗して全部自分のものになっちゃったんだけど、そうやって沢山作ってみたことが結果的に今回につながったと思います。

 

——今回の展示で作られる鉢や、布花はどのようなものなんでしょう。

 

utopiano : 幸子さんが最初に気に入ってくれた私の作品がニオイスミレだったと思うんだけど、そんな小さな野の花や原種に近いようなものたちを幸子さんの鉢に合わせようと思っています。私は野の花とか高山植物とか小さい花がすごく好きなんだけど、そういった小さな植物は、作品にするには目立たなくって魅力的に仕上げるのが難しい。本当に目立たない地味なものなんだけど、その可愛さや魅力を幸子さんの鉢とだったら表現できる気がしています。花と入れ物のような存在ではなく、ふたつが並んではじめて魅力が表れてくるものを作りたいと思っています。

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左画像:左から リンネソウ、モランディの鉢 

 / 右画像:染付の鉢

——幸子さんは今回風合いの異なる複数の鉢を作っていただいていますよね。

 

幸子:リンネソウは北欧のお皿がきっかけなんです。「どうやって作ったんだろう?」って気になるものがあって、それを真似て自分なりに作ってみたのが始まりです。だけど単なる真似にはならないよう気をつけていて。染付は古いフランスの18世期のお皿の技法や模様を参考にしつつ、自分らしい風合いで描いています。モランディは「これだ!」っていう閃き。深く勉強をしているわけではないから、毎回閃きとか適当が多いんだけど(笑)。でもゆっくり描いたり丁寧に塗ったりするのではなく、私の作品はある程度動きや速さが必要だと思っていて、その動きに手が慣れてきた時にいいものが出来上がります。

 

utopiano : モランディの鉢、すごくいいよね。写真より実物の方が何倍もいいので是非直接見て欲しいですね。

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「ポワロのブローチ」が生まれたきっかけ

——新作のコラボ作品となる「ポワロのブローチ」も新しいチャレンジですよね。3年前に幸子さんのアトリエに伺った際には、すでにおふたりの間でこのブローチを作る話が出ていたと記憶しています。

 

幸子:ずっと作りたいとは思っていたんだけど、すごく難しそうだから無理だろうなって思っていて。中が空洞のブローチなんて、どうやって作ればいいのか分からなかったんです。

 

utopiano : 以前、私が幸子さんのアトリエに行った時に、テレビで『名探偵ポワロ』が流れていて「いつもポワロって胸元に何か付けているね」って話をしていたんです。そうしたら幸子さんが「前からポワロのブローチがいいなと思っていた」と話してくれて。私は陶器の制作の知識は全然ないから、軽い気持ちで「いいじゃん作りなよ!」と簡単に言ったんだけど、陶器で作るってすごく大変だったんだよね。

 

幸子:作りたいと思いつつも自信がなくてなかなか手を出せなかったんです。今の作り方がベストかは分からないけれど、思い切ってチャレンジしたらできるものなんだなって思いました。

 

——utoさんが背中を押したタイミングで、布花とのコラボを想像されていたんですか?

 

幸子:それは前提でしたね。

 

utopiano :幸子さんの背中を押すだけじゃなくて「そこに私が布花をいけるから」まで言ったと思います。無責任に背中を押すだけじゃなくて「一緒にやろう」っていう思いがありましたね。

——その姿勢ってすごく心強いし、大きなきっかけにもなりますよね。

 

幸子:ポワロのファンはいっぱいいるから、私なんかが作っても大丈夫なのだろうかっていう思いもあったけど、ある時「別に誰が作ってもいいよね」って思ったんです。誰もやっていないことをするって面白いから。

 

utopiano : 「ポワロのブローチ」は、中が空洞になっていたりそこが花瓶になっているところとか、同じブローチといっても作り方から今までのものと全然違う新しい取り組みだと思うから、幸子さんは本当に幅が広くてすごいなと思う。

 

幸子:幅が広いというか、色々やってみたいだけなんだけど。

 

utopiano : 才能があるから「やったらいいのに」って思うんだけど、幸子さんは自分ではなかなか踏み切らないから、つい「あれやってみたら」とか「これやろうよ」って言っちゃうんだよね。幸子さんの元々のベースは陶芸だから、既存の作品以外にも様々なものを陶芸というアプローチで形にできる力がある。そこが幸子さんの強みだと思っています。

 

幸子:もともと私は民芸が好きで器を作りたかったんだけど、作り方が分からなかったからブローチを作って凌いでいたというのが始まりでした。陶芸の学校には行っていなかったから、陶芸教室に行こうとしたんだけど先生が高齢を理由に閉めてしまっていて。器は作れなかったけど、ブローチと立体の動物は独学で作っていました。その後に学校行っていろいろ作れるようになったけど、結局またブローチに戻ってきましたね。

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陶板(※2019年「flâneur - 遊歩者-」出展作品 / photo : yorifune)

相手の力を借りることで出せる新たな魅力

——utoさんは以前から、「幸子さんはブローチ作家なんだけど、ブローチだけが魅力の全てじゃないところがすごくて、それをみんなに伝えたい」ってずっと話されていましたよね。

 

utopiano :幸子さんとヨリフネで展示をすることになった時(2019年 「flâneur - 遊歩者-」)、実は二人展じゃなくて幸子さんに個展をやって欲しいと思っていたんです。ブローチ以外に、スケッチや絵も含めたような「幸子さんの魅力全開個展」をしたかったの(笑)。でも話していくうちに「一緒にやろう」ってなって結局は二人展になったんだけど。

 

幸子:utoさんと二人展をすることで私の新しい魅力が出せているんだと思います。utoさんが「幸子さんの陶板が見たいな」って言ってくれて前回の陶板も実現したから。

 

utopiano :そもそも「陶板作ってみたいんだ」って幸子さんが言っていたんだけどね。陶芸家のルート・ブリュック展の話をしていた時に「私やってみたいと思っているんだけど、できるかな……」って言っていたのを覚えていたの。

——そうやって「flâneur - 遊歩者- 」では他では見ることの出来ない表現が見られることが私にとってもすごく贅沢で有難いことだと実感しています。もちろん「幸子さんの魅力全開個展」も素敵だと思うけど、やっぱりこのふたりだからこそ出来上がっている世界観や魅力は大きいと思います。

 

幸子:そうそう。ひとりだとこの雰囲気には絶対にならないから。私だけだときっと“面白可愛い”ほのぼのした展示になってしまうんです。ヨリフネで展示をするんだったら、やっぱり凛とした要素が欲しいけど、私の作品だけではその空気感が出ない。

 

utopiano : 私は幸子さんと反対で、凛とした感じをつい目指してしまう。もちろんそういうものも好きなんだけれど、実は昔から可愛いものが好きで。でも自分の中では“らしくない”と思っている。その可愛らしさを自分が表現するということを私はうまく表せないんです。でも幸子さんと一緒であればそれが素直に表現できる気がしていているから、今回の「ポワロのブローチ」のお花は、ライラックとか乙女全開なものも作っているんです。

 

幸子:私はutoさんとは逆で、そんなに自分が乙女とかファニーだと思ってないんだけど、30歳の誕生日に魔法のステッキみたいなのをプレゼントされたことがあって、 私って一体どんな印象なんだろうって思った(笑)。

 

utopiano : 幸子さんはものすごくしっかりした芯の部分があるけど、そこをあまり外に出さないから、勘違いされる時があるよね。

 

幸子:結構、いじられキャラだからね。

 

utopiano : そうそう。でも、私は幸子さんの中にある凛とした部分をいろんな方に見て欲しいと思っています。本当はそういう部分があるんだけど、そういう風に見られづらい。幸子さんもそこについて自信があるわけじゃないから、二人展になると「私で大丈夫かな?」って言い合うの。その理由ってお互いの性格が真逆だからかもしれない。

 

私は実はフニャフニャした部分があるんだけど、それを鎧で隠していて、それが作品にも出ていると思う。幸子さんはその逆で、ものすごく強い芯のような、揺るがないものがあるんだけれど表現するものは間口が広くて柔らかい。それも普遍的だし素敵なんだけど、幸子さんの魅力はそれだけじゃないから。「その魅力を一緒に出していこうよ」っていうのがこの二人展のテーマかもしれないね。

 

幸子:ちょうどいいね、私たち。

——おふたりが真逆っていうの、すごく分かります。お互いに足りないものを補い合っている感じですかね?

utopiano :「足りない」ではなくて、幸子さんも私ももともと内側に持っているというか。

 

幸子:utoさんが本当は可愛いものが好きなこととか、私も凛としたものを作れるっていう要素が相手の力を借りて見せれる感じかな。

 

utopiano : うんうん。引き出すっていうことかな。補うのではなくて引き出したい。幸子さんの中にある揺るがなくてしっかりとした部分や、すごく美しいものを見ている目を表に出してみたいよね。でもそれが引き出せているかどうかを判断するのは、今回来ていただくお客様たちだけどね。

 

でも、今回真利ちゃん(ヨリフネ店主)が「ポワロのブローチ」を付けている写真がすごく心に留まって。あの写真はさっき言った「引き出したい」「引き出せたらいいな」っていうものが写っていると思う。だからすごく嬉しかった。

 

幸子 : 素敵だよね。きっと来てくれた方にも伝わると思います。

 

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——最後におふたりのこれからやってみたいことを伺いたいです。

 

幸子:すごく大きい作品を作ってみたいかな。エスカレーターの脇で大きく展示しているようなものを作ってみたい。

 

utopiano : 幸子さんならできるよ。いつかやってみたいね。

 

幸子:おばあちゃんなるまでにはやるね。10メートルくらいのやつ(笑)。

すごいかさばるだろうな。保管しておくところがないけど。

 

utopiano : 公的な機関に依頼してもらいましょう(笑)。

 

——utoさんはありますか?

 

utopiano : 私は布花でお庭を作ること。庭を作れるほど布花を作るってすごく難しいんだけど、それくらいたくさん作って、空間を作りたい。作家としての夢ですね。

——今すぐにではないかもしれないけど、これまでの展示で、心の中にあった想いを実現させてきたおふたりを見てきたのできっと実現されていると思います。

それが見られる時を楽しみにしていますね。

 

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photo : winter named winter

utopiano(ユートピアノ)

 

2010年頃から、実際の植物から型紙をおこしてオリジナル作品の制作をはじめる。

著書に『布花標本』『季節の布花標本』(共にグラフィック社)、横浜関内のアトリエにて「布花標本教室」を開いている。

HP

https://utopiano.tumblr.com

​小菅幸子

 

1977年 三重県生まれ

2006年 陶芸を始める

2011年 愛知県窯業高等技術専門校卒業後、

     愛知県瀬戸市にて制作

2016年 三重県津市に築窯

2013年 - 現在 日本各地にて個展、出展

​HP 

https://kosugesachiko.com/

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utopiano / 小菅幸子 二人展

“ flâneur  - 遊歩者-  ver.2 ”

 

​2021年

4月2日(金)- 5日(月)

抽選予約にて完全予約制での入店

4月6日(火)

予約フォームにて予約優先制での入店

4月9日(金)  - 10日(土)

通販受付期間

 

会場:器とギャラリー・ヨリフネ

神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101

展示会詳細はこちら

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