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安部太一さんインタビュー

僕は、空気を作るーー

精神を向上させる日々が良い器につながる

​聞き手・文 ヨリフネ・船寄真利

​編集協力 船寄洋之

前回、安部太一さんがヨリフネで展示を開催してくださったのは2021年3月のこと。

 

長年仕事や作品と向き合う中で出てきた悩みや生き方に対して、ちょうど答えが見えた時期であり、自分が進む方向に自信を持って大きな一歩を踏み出したところだという状況を話してくれた。

そこから2年半経って、どう過ごされているのか。また、生活や制作に変化はあったのか。安部さんに会いに島根へ伺うと、開口一番に思いがけない言葉を口にした。

安部:僕は今、ものを作って売っているという感覚がないんです。商品を販売して、その利益を得てるって感覚がない。

 

——いきなり興味深い発言ですね。ですが実際安部さんは陶芸を生業にされていますよね。

 

安部:結果として作品になったものを、やりとりしている感覚というか。商品を作って売っているという事実は変わらないかもしれないけど、僕にとってはもう少し精神的な領域に重点を置いている。僕にとっての作品とは、陶芸はもちろん僕がやっている合気道も音楽も生活も全部含めて、自分というエッセンスの結果が表れたものだと考えているんです。

——「自分が今までどう生きてきたかの結果」という事ですか。

安部それも含めて、もののまとう雰囲気には自分が全て表れてくると思うんです。前提としてものには形がありますよね。同時に、僕の作ったものには僕の「雰囲気」や「空気感」がある。それを「優しい作品だ」と言ったり「懐かしい雰囲気だ」と言ったり、僕の作品を手にしてくださる方はそういうものを感じて手にしてくれているんだと思うんです。では、そういった「空気感」ってなんなのか。例えば、僕の作品を持っている人が僕と直接会って、「この人って最低の人間だな」と感じたらその作品を見るたびに僕のことを思い出して、嫌な気持ちになると思うんです。

——確かにそれはあるかもしれないですね。

安部:逆に、僕がすごく感じの良い人間だったら、作品が目に入るたび、心が温かくなるんじゃないかなって。それは目の前にある作品だけの印象ではなく、その先に作り手の気配を感じているってことなんです。みんな作品を通して作り手の存在を感じている。そういった見えない領域が、作品の持つ空気感につながると僕は考えています。だから僕は、日々、精神を向上していく意欲を持って過ごし、一日を心穏やかに、外的要因に乱されることないよう自分をしっかりと保つ。日常を大切にすることが結果として、良い器を生み出すと思っています。

 

——安部さんは以前「作り手という仕事は精神状態が大きく物事に影響を与える仕事だから、機械で量産するようなものではなく、心のありように影響を受けながら制作することだと気づいた」と話されていました。同時に「美しさのバランスなど、正しい判断ができるよう自分の感性を整えておくことが自分の基盤になる」とも。だからこそ日々自身に向き合うことが重要であり、心や精神という見えない領域も安部さんの器を構成するひとつの重要なパーツで、それらを向上させていく日常を大切にしているということでしょうか。

 

安部:いえ、「パーツ」なのではなく、それ自体を作っているんです。元々ものを作っている感覚なんじゃなくて、周りの空気の方を作っている感覚。そして、その空気がこの器を作っている。そちらにもともとウェイトがあるんです。僕が陶芸家という、ものを作る仕事をしたいと思ったのは、たくさん作って売ってやろうというところが出発点ではありません。自分が一生懸命に作ったものを喜んでくれる人がいて、その二次的な要素としてお金をいただけるという、その循環が心地よかったから。それもバランスとして精神的な要素が大きいですよね。これから、もっともっとそちらのマインドの方が大きくなると僕は思っています。

——なるほど、確かにそうですね。

安部もし自分の中に喜びを感じながら作品を作れなくなったら、その人の自分が壊れていく。心でも体でも、どちらにせよ作れない状況になります。僕は陶芸が仕事だから、それは器などの作品になるんだけど、これはどんな仕事や状況にも通ずると思うんです。

——以前「心が不安定になると物理的に作れても美しくなくなる」ともおっしゃられていましたね。

安部:そのときはそういう風にも表現したけど、要するに自分の手で作ったものだけど、なんだか他人が作ったものっぽくなっていく。魂を感じなくなるんです。だから、日々自分と対話しながら心身を充実させることを大切にしたい。それが結果的に良いものを生み出すことになると思っているから。逆に、身体を悪くしても機械的な仕事で量産し続けられる人はすごいなって思うけど、僕はそれが当たり前で評価される社会を選ばないし、そういう価値観の商品に満足する消費者にもなりたくないなと思います。

 

——同感です。ヨリフネも同じで、たくさん売ってお金を儲ければそれで良いわけじゃないと思っています。こういった精神に価値を感じる方が多い世の中になれば嬉しいし、その一端を少しでも担えたらといいなと思います。

 

安部:今はそういったことに敏感な人が増えているんじゃないかな。世の中はバランスを保とうとするからある程度、価値観は分かれていくと思うけども。

——そうですね、自分と違う価値観ももちろんあって、どれを選ぶかは自由でいい。その中で自分の考えをしっかり持っていきたいですね。だからこうやって作り手さんにインタビューをして、多くの方にものの背景を伝えることで判断する材料にして欲しいなと思っています。うまく聞ける時と聞けない時がありますが(笑)。

今回、こうして安部さんとお話をしていて、昔よりも言葉数が多くなったなって。ご自身の考えを話してくださるようになったというか。

安部前は考えて考えて、結局喋らない時とかあったから(笑)。今は自分の考えがより明確になってきたから言葉が増えたのだと思います。

——いよいよ安部さんの展示がヨリフネで始まりますが、安部さんはご自身の作品に表れる空気が、見に来てくださる方の目にどう写っていたら良いなと思いますか。

安部:その問いに対して答えが少しずれるかもしれないけれど、僕の作品を手にしてくれた人が、僕の作品から伝わる匂いとか雰囲気を感じて、この人の作品が側にあって良かったなって思ってもらえたら嬉しいですね。そう感じてくれるような生き方を自分自身がしていきたいと思っています。

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【後編】椿野恵里子 インタビュー

そのままの姿を受け入れるーー

姿勢から見える自然への信頼と敬意

​【こちらから】

​​安部太一 個展

2023年 10月8日(日)〜 10月12日(木)

12:00-17:00

会期中無休

 

会場:器とギャラリー・ヨリフネ

神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101

展示会詳細はこちら

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