大谷桃子さんインタビュー 

 

妻として、同じ陶芸家として——

大谷哲也に気付かされた、新しい美しさの可能性

​聞き手 ヨリフネ・船寄真利

大谷哲也さんの妻で陶芸家の大谷桃子さんは、きびきびとした格好よい女性で、以前からじっくりお話を聞きたいなと思っていました。

 

おふたりが一緒にいる姿を見ていると、哲也さんにとって桃子さんは、ものすごく大きな存在だと感じます。そして、哲也さんを語るうえで、桃子さんは絶対に外せない存在だとも。

 

桃子さんの目には、哲也さんはどんな陶芸家であり、どんな夫として映っているのか。そこには同じ陶芸家でもあり、家族という存在だからこそ、浮かび上がる視点がありました。

 

 

取材・文・編集:船寄洋之

写真:Maya Matsuura

食べることは、つなげること

——大谷家には陶芸仲間や取引先など、哲也さん・桃子さんに関わるたくさんの人が訪れ、私のように宿泊までお世話になることも多いそうですね。そうやって大谷さん夫妻がいろんな世代の人たちを受け入れる姿勢は、なにかきっかけがあったのでしょうか?

桃子:海外で展覧会をしたことが大きいかな。海外では、展覧会のホストが決まって「いいよ、いいよ」ってご飯を食べさせてくれたり、宿を取ってくれたりと、本当にさまざまなサポートをしてくれるんです。若い頃だとありがたいけど、私たちもそこそこの年齢になってきたから、お金を払わせてほしいんですよ。でも、ホストはホストに徹して「あなたたちは私のゲストでいてね」と言われてしまう(笑)。

だから、私たちがその場でホストに恩を返すことってなかなか難しいんです。もちろん直接恩を返せる場合は返したらいいんだけど、みんな再会できるわけでもないから、ある時期に「全ての恩を直接返すことは無理だな」「諦めよう」って思ったんです。お世話になる時は甘えて、その代わり誰かがここに来てくれたら、自分たちができる範囲でホストに徹しようと考えるようになりました。

 

——もらった恩を他の誰かに返す。そんな気持ちがあったんですね。

桃子:来てくれた人が「ここでうれしかったことを、誰かにしてあげよう」という気持ちになり、それが巡り巡って、またいろんなつながりが生まれるようになればいいなって。特に一緒にご飯を食べることって、人と人をつなげることだなと思っています。

 

 

ここに来てくれた人とみんなで食卓を囲んで、それを思い出して誰かに料理を作ったり、それがきっかけで誰かと仲良くなったり、新しいつながりができたりするかもしれない。てっちゃん(哲也さん)とはいつも「この場所でいい循環が生まれたらいいね」って話をしています。

 

夫であり、親友であり、チームメイト

——普段、哲也さんと一緒に生活するなかで桃子さんにしか見せない姿がたくさんあると思うのですが、桃子さんにとっての哲也さんってどんな人ですか?

 

 

桃子:てっちゃんはいつもふざけたことばかり言っているけど、すごく真面目で努力家な人だなと思います。常に目標を持って、「もっとよくするためには、どうすればいいか」と考えているし、時には世の中に登場した便利なものを使って新しい切り口を取り入れようともする。

表では何事もサラっとやってのける印象があるけど、裏では失敗を重ねながらも一生懸命に陶芸と向き合い、現状に満足することなく日々努力を積み重ねているんです。だから、一年前から比べると確実にバージョンアップしていると思います。日々、私はそういう姿に刺激を受けていますね。

 

——哲也さんの存在が桃子さんにいい影響を与えていると。

桃子:それはありますね。てっちゃんがいなかったら、私は今のような考えで陶芸を向き合っていなかったように思います。私は陶芸家の両親に育てられ、焼き物がある環境が当たり前だったから、焼き物に対して真剣に取り組んでない部分があったかもしれなかった。でも、いつも隣で「もっと、こうできないかな」と試行錯誤しているてっちゃんの姿に影響を受けて、私はより物事を深く考えるようになったと思います。私の方が先に陶芸をはじめたけど、今ではてっちゃんが私を引き上げてくれている部分がすごくあると思います。同じ仕事場だから毎日学ぶことも多いですね。

——桃子さんの器は優しいラインにバナナや蓮などの東南アジアの植物のモチーフの絵柄ですよね。おふたりの器からは全く違う印象を受けますが、そのような環境から桃子さんの作風に変化はありましたか?

 

 

桃子:普段はお互いの作品について何も言わないことが多いから、作風は変化していないと思います。でも、本当に迷った時とか助けてほしい時は、てっちゃんに「どうしたらいいかな?」とか「どっちがいいかな?」とか相談することもあります。そんな時は、いつも的確なアドバイスをくれるから、それで安心するわけではないけど、私の気持ちがほぼ固まるというか。そのアドバイスに嘘はないだろうし、客観的な意見でもあるから、その時は「えっ」って思ったとしても、あとで冷静に考えたら、「そうかもな」って思うことも多いですね。

 

——哲也さんは仕事の良き理解者でもあるわけですね。

桃子:そうですね。あと、てっちゃんは夫婦でもあるけど何でも相談する親友みたいな存在でもあるのかな。陶芸は私たちのお金を稼ぐ手段だけど、それと同じくらい、私たちは「こう暮らしていきたい」という気持ちを大切にしています。日々の暮らしが整っていなければ、それに影響を受けて仕事が集中できなくなってしまう。いい環境で仕事ができるように、仕事や家事を分担してひとつの暮らしを作り上げていくので、チームメイトのような感覚もあると思います。

夫として頼れる存在でもあるし、隣で働くのも楽いし、一緒に出かけるのも楽しい。てっちゃんとほとんど一緒にいるから、まわりからは「そんなにいて大丈夫?」とか言われたりするけど、私は「楽しいからいいよ」って答えてるくらいだから(笑)。

 

 工芸とアートがぼやける、

まだ知らない美しい場所

——陶芸家・大谷桃子として、「陶芸家・大谷哲也」をどう見ていますか?

桃子:私は「とりあえずこんな器が作りたい」とひらめきで作ることが多いけど、てっちゃんはデザインを学んだこともあって、「こういう器だと持ちやすい」とか「重ねたらきれい」とか「並べた時にひとつの塊として美しい」とか、そういう大きな視点がある作家だと思います。

ひとつの皿とか、ひとつのカップとか、そのものだけを見るとごくごく単純で誰が作ったものかも分かりにくいけど、展覧会でその作品群を見ると美術館でひとつのアートピースを観たような気分になるんです。ひとつのエネルギーを感じるというか。そういう部分もみんなから支持されている魅力のひとつだと思います。

 

——哲也さんは、「大谷哲也の作品群で見てほしい」と話されていますよね。

桃子:もちろん、どれも使いやすい器として十分に機能しているんだけど、それが塊になった時に、また別の命が宿るような気がします。最近の展覧会は初日で作品が少なくなる場合もあるから、最初に来た人じゃないとその世界観を体験することはできなくて、ちょっともどかしいですね。

——今はSNSの画像で作品を見ることはできますが、やっぱりそのもの自体とは違いますからね。初めて実際に哲也さんの器を目にして、心を動かされたことを今でも覚えています。

桃子:ときどき「工芸はアートよりも表現レベルが低い」と言う人がいるけど、世界観を持って作られた生活用品や工芸品は美術作品に負けない美しさが確かにあると思います。てっちゃんの作品みたいにいわゆる生活用品や工芸がアートに寄っていけば、その境界線がぼやける場所がある、そんな気がするんです。

——アートか工芸か。その意識が曖昧になる場所ということですね。

桃子:そうそう。その曖昧な場所が、もしかしたら新しい美しさの視点になるかもしれない。陶芸家は元気であればずっと続けられる仕事だから、てっちゃんがこのまま作品を作り続けて、これから10年後、20年後にはどういう表現になり、私たちにどんな世界を見せてくれるのだろうって、すごく楽しみですね。

 

大谷桃子

 

1971 京都生まれ

1990 オレゴン州立大学(アメリカ)

 -95 在学中、インドネシアに留学

1997 信楽窯業技術試験場 釉薬科

1998 信楽窯業技術試験場 小物ロクロ科

大谷製陶所

https://www.ootanis.com

 

写真:ヨリフネ

​​大谷哲也 個展

2020年 4月25日(土)〜 5月3日(日)

 

※延期になりました

 

会場:器とギャラリー・ヨリフネ

神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101

振替日程などが決まり次第、

下記「展示会詳細」ページにてお知らせいたします。

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器とギャラリー・ヨリフネ

横浜市神奈川区松本町3-22-2 ザ・ナカヤ101
Open : 12:00 - 18:00
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