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大谷哲也さんインタビュー 

 

大谷哲也の現在地——

作品としての普遍性、作家としての公共性。 

 

【後編】

​聞き手 ヨリフネ・船寄真利

大谷さんは前回のインタビュー(2020年)で「器の普遍的なところを取り出して作りたい」と話されていました。

 

あれから4年。今、大谷さんは何を考え、この先をどう見ているのか。

 

大きく変化した環境を伺う中で浮かび上がる、“大谷哲也”という作家としてのあり方、そして生き方に迫りました。

 

文・編集:船寄洋之

写真:Maya Matsuura

​前半はこちら

大谷哲也の現在地——

作品としての普遍性、作家としての公共性。

​【前編】

自分の内側からものを発信する作家に

——お弟子さんを取られて考えることも多くなったんじゃないかと思うんですが、実際のところどうでした?

大谷:うーん…まあ、思うことはあるよね(笑)。

——正直(笑)。

大谷:もうちょっとやり方あるなとか、俺はこうしてたとか。でも強要するわけにもいかないから。それより彼らのモチベーションをどうやって自分が引っ張っていけるかってことは桃子と一緒に考えてる。あまり強烈なリーダーシップを発揮しすぎたら押し潰されちゃうから難しいんだけど、僕とか桃子の背中を見て「こうなりたい」って思わせるしか仕方ないかなって。だからこそ僕らが何かゼロから生み出すプロセスを意識的に見せておくようにしてたりね。今までやってこなかったタイルとか植木鉢を作ったり新しい工房の仕事とかもそう。スケッチを描いたらすぐに見せて「こんなのどう?」「俺はこんなこと考えてるんだけど」と伝えてるし、こうやって物事を考えたらいいんだとか、思いついたことを彼らにもきっちりシェアしてるかな。

——聞いてると、大谷さんとお弟子さんは一般的な師弟関係ではないんだろうなって感じがします。

大谷:正直、そこは分からない。だって僕は弟子になったことないから。でも弟子を取る側に自分の意思でなったわけだから、自分ができることをやるだけじゃないかなと。まあ、弟子と師匠みたいな関係があるから仕事では友達にはなれないけど、せめてプライベートの時くらいは友達でありたいなとは思ってる。一緒に釣りしてる時とかね(笑)。

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——最初のお弟子さん、伸太郎さんがもう少しで独立されますが、お弟子さんはどんな風になってほしいとかありますか。

 

大谷独立して作家を名乗るのなら、自身の内側からものを発信して欲しいと思ってる。少なくともその人の作品群を見たときにまとまりがあって、作り手自身との繋がりがしっかりと感じられるものを。それはいつも僕たちが見せてることだから。これもあれもとどこかからいろんな売れ筋を集めてきたものを作っている人は作家じゃないよって。

——やり方がうまいだけで作家ではないというか。

大谷:売れたからいいってわけじゃない。売れなくても作家であり続けるために僕たちがサポートしながら、彼らが自分がやりたいと思うことを、作りたいと思うことをやって欲しい。でも、彼らはそれが難しいみたい。慣れてないから、まず人に見せるのが恥ずかしいって。

——もっとガツガツしてるのかなって思っていました。

大谷:でも、ここに来てこういうことやりかけたのなら腹を括れと。腹を括って内側を全部開いて、さらけ出さなかったらダメだと思う。言葉じゃなくていいから、ものに自分の内側からあふれ出すものをのせて欲しい。今はものに言葉をうまく乗せられる人たちがわりと成功しているけど、少なくともそんなことはしなくていいから。

——本当に心からいいと思うものを作って欲しい。そんな大谷さんの思いが伝わってきます。とはいえ、作家の世界は想像以上に厳しい世界ですよね。

大谷:もちろんどの世界でも競争があるからね。優劣とか序列とか、ヒエラルキーみたいなのが少しずつできてきて、そのなかで生きていくことのしんどさ――現代社会の生きづらさとの共通点みたいなのはどこにでも出てくる。精神的にしんどくなる子たちも多いし。でも、そんなことじゃない気がする。たまたまここで桃子と作家として暮らしていて、世の中から見ると自分たちはたぶん成功しているんだけど、そんなことは別にして、全然売れてなかったとしても、こうしてご飯が食べれて家族がここにいて、こういう暮らしをしていたらきっと満足じゃないかな。それを知って欲しいし、それをして欲しい。結果として売れっ子も出てくるだろうし、あんまり売れない子も出てくるだろうけど同じように幸せを感じて欲しいし、せっかくここに来た子たちだったらシェアできることはシェアして欲しい。売れた子なら僕らが若い子にしてあげたことを若い世代の子たちにしてあげる。そういうのがすごく大事かなって。

——技術や知識だけじゃなくて、自分の幸せを見つける場所にもなってるんですね。

大谷:結果、この仕事が向いてないと思っても、ここで得るものがあって良かったと思って欲しい。ここでの時間が自分の人生が少しでも豊かになるきっかけになったらと。それだけでもいいかな。焼き物以外でも、例えば「5年で猫が好きになりました!」とかでもいいし(笑)。

——(笑)。

大谷:本当になんでもいい。この経験を通じて生きることの楽しさを発見できたらうれしいし、それが続くのならもっとうれしい。ただ弟子の試みはまだ黎明期だからこれから思うことも増えると思う。ようやく弟子が3人体制になって上の子が下の子を見てあげられるようになったところだし、今春、また新しい子が来てくれて弟子が4人になるから、少しは回るかなって状態。安定的になるまではもうちょっと時間がかかると思うけどね。

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やっていること、持っているものに公共性を持たせる

——海外でのお仕事も増え、お弟子さんも取られた今、日々どんなことを考えながら制作をされてますか?

 

大谷:うーん、仕事もまずまずうまくいってるし、毎日の暮らしも幸せだから、正直これ以上何を求めるんだろうって気持ちもある。作家として世界的に有名になりたいとかもないからね。その部分では満足したっていうか。

 

——そういう気持ちがあるからこそ、大谷さんはご自身が感じる幸せを自分だけのものにしないというか。お弟子さんを取ったのも幸せの裾野を広げたいからってことなのかなと。

 

大谷:そうかもしれない。最近は「作家としての公共性」みたいなものをすごく考えている。自分たちのやっていること、持っているものの一部分に公共性を持たせると結果まわりも良くなるんじゃないかなと。直感的なものなんだけど、今はそれを大事にしたい。例えば、弟子たちに僕の仕事の一部を任せることも公共性の一つだと思っていて。

 

——技術や製法を受け継いでもらうってことでしょうか。

 

大谷:それもあるんだけど、他にも考えがある。前にあるプロ野球選手が変化球の投げ方のコツを公開していて、「自分はこういう風に投げているんだ」と明かしていた。そうするといろんな人に投げ方を真似されるから、一見選手は困るように思えるけど、後々「こう投げた方がいいんじゃないか」とかいろんな意見をもらえるようになるんだと。そうやって自分の財産を公共化することで技術が発展して、さらに自分のフィードバックにもなるから、その分野全体のレベルがもっと上がることになる。それを知って、なるほどなって。今、僕は弟子たちに、例えば平鍋の作り方を釉薬の調合も含めて全部教えてるし、彼らが独立したら平鍋を作ってもいいとも言っている。実際にそうなったら「哲也さん、平鍋の土の調合はこっちの方がいいですよ」とか教えてくれると思うんだよ。そうやって一人でやっていたことが複数に広がることで、結果自分にもまわりにも良い影響が生まれると思ってる。

——大谷さんは以前に「器の普遍的なところを取り出して作りたい」と言われていて、最近のインタビューでは「無国籍化」とか「土着性をなくす」という風に表現されていますよね。そのキーワードも気になりました。

 

大谷:いつもそういうのは後付けなのかもしれないけど、整合性というか論理的に自分がやっていることを説明するために言葉の表現がだんだん広角になっているように感じていて。それは海外での仕事が増えてから余計に感じてるかもしれない。その影響は本当に大きくて、彼らと仕事を繰り返す中で、例えば海外では日本の文学でも司馬遼太郎より村上春樹が読まれるのは、日本人の繊細な心情に訴えかけるようなテーマではなく、もともとの人間に備わる「善悪」とか「理不尽さ」に訴えかけるようなテーマにしているからかなって。

 

——置き換えたらどの人間にも通ずるような。

 

大谷:そう。やっぱりそこを自分は追究したいのかなって。普遍性とか無国籍化とか、言い方はなんでもいいんだけど、たぶん僕は自分の作品に対する考えを、いろいろパズルみたいに当てはめて、どうやったら説明できるのかなって考えるのが好きなんだと思う。最近ピタッときたのがその言葉だっただけで、これから変わってくるかもしれないし、絶対的なものじゃないけどね。そうやって日々考えながらものを生み出すことこそが作家だと思ってる。

——以前「純粋にゼロから焼き物を作るプロセスにも取り組みたい​​」と話されてましたが、環境が大きく変わった今もその気持ちは変わらずですか?

 

大谷:自分で土を掘って薪を切って、自分で作った窯で焼いたりしてね。今でもそういう昔の製法を復元することにも興味はあるけど、それは多くの人がやってるからね。やっぱり僕は人がやってないことをやりたい。いつもそればっかり考えてる。今の時代を映したものを作れるって今の作家だけに与えられた特権だと思うから、せっかくなら僕はそれを表現したい。少しずつ自分の軸足みたいなのが固まってきて、ある程度はオートマチックに物事を動かせるようになってきたから、それを動かしながら新しいことをしたいなと。今は大谷製陶所としてタイルとか建設資材を作っていて。

 

——大谷さんと建築資材…なんだか想像がつきません。

 

大谷:作家もののタイルってまだあまり誰もやっていないからね。出口がどうなるか分からないけどなんとかなるだろうと。いろんな人が興味を持ってくれてるしね。

——誰もやっていないからこそ価値があるっていうのもありますよね。

 

大谷:僕はいつも「大谷さんなら、それくらいのことはやりそう」と思われるくらいの雰囲気は持っていたい。50歳も超えたしそう思ってくれるようなオーラは欲しいかな。かっぷくはないから、せめてオーラくらいはね(笑)。

​​大谷哲也さんインタビュー

僕の感じたもの全てがここに含まれている——

あらゆる循環が生み出す普遍的な器

 

​▷【前編】​はこちら

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大谷哲也

 

1971 神戸市生まれ

1995 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科 意匠コース卒業 

1996 滋賀県窯業技術試験場勤務(〜2008) 

        滋賀県甲賀市信楽町に大谷製陶所設立

大谷製陶所

https://www.ootanis.com

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​​大谷哲也 個展

 

2024年4月20日(土)〜24日(水)

 

会場:器とギャラリー・ヨリフネ

神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101

展示会詳細はこちら

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