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wica grocery 折原陽子さん インタビュー

帽子を通して出会ったひとりの職人

ーーその技術・人生を伝え続けたい

​聞き手・文 ヨリフネ・船寄真利

旅する帽子屋、wica groceryの折原陽子さん。

毎年、麦わら帽子のシーズンになると、全国各地を駆け回る。実は彼女自身は帽子職人ではないし、デザインの勉強をしたわけでもない。扱う帽子を作っているのは埼玉県春日部市で140年にわたり麦わら帽子を作り続けている田中帽子店だ。「こんな帽子は作れないか」とイメージを共有しながら、主に会長の田中行雄さんと対話を重ね、二人三脚で帽子作りに取り組んでいる。なぜ、彼女は帽子屋になったのか。彼女の扱う帽子の魅力とは何なのか。気になって話を聞いてみた。

 

編集:船寄洋之

photo : 船寄真利

​Ⅲ

素晴らしい職人の技術を伝え続けたい

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——当時、帽子はお店のセレクトの中でも一つのアイテムであって、メインではなかったんですよね。お店を閉めて、また活動を始めようと思ったときに、帽子を選ばれたのは何か理由はあったんでしょうか。

折原:そうですね、特に帽子がすごく人気アイテムだったとか、すごく好きだったとかではないんです。私自身、「帽子がないとコーディネートが完成しない」というタイプじゃないですし。

——そう言われると、余計に理由が気になります。

 

 

折原:いろいろ複合的で、「これだ!」とは一言で言えるわけではないです。ただ、会長と一緒に帽子を作る中で、何十年も帽子を作り続けてきた職人さんの後ろ姿が格好良すぎたというのが大きいです。そんな職人さんに、自分が素敵だなって思う帽子を作ってもらったんだよ、こんなにすごい職人さんがいるんだよって、たくさんの方に伝え続けていきたいと思いました。会長は職人気質で、あくまで裏方に徹するタイプの方なので、どれだけ素敵な帽子を作っても「これいいでしょ?」と自分では言わないんです。私は会長の帽子のいちばんのファンだから、代わりに私が帽子をいろんなところに連れていって、良さを伝えていける人になりたいという思いがいちばん強いですね。

——すごく共感します。私もものをセレクトしている立場で、作り手さんのいちファンだから。お客様と一緒に「これめっちゃいいですよね」って言い合える瞬間がたまらなく好きで。自分では作れないけど、好きで尊敬しているからこそ「これ、いいでしょ?」って心から言える。そのために、たくさん作り手のことや作品を知って、お客様に伝えていきたいなって思います。やってることは少し違うけど、同じ気持ちなんだなって感じました。

 

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——お話を伺えば伺うほど、折原さんの帽子作りは会長あってこそだと感じるのですが、会長はもう92歳ですよね。失礼を承知で話すと、いつまでも元気に帽子を作り続けられるわけじゃないと思うんです。会長が引退されたらwica groceryはどうなるのでしょうか。

折原:それは、すごく考えました。会長自身も気にかけてくれていて、「自分が作らなくなってしまったらどうするんだ」なんて話もしました。でも、工房って会長と私で作っているものは例外で、会社としての窓口がきちんとあるんです。本来はそこでわかりやすくやりとりして、私と会長のような個人的な作り方はしていないんです。

 

——会社として、システム化されているような感じなんですね。

 

 

折原:そうですね。でも、私がその方法で帽子を作りたいかというと……やっぱり違うなと思いました。会長と一緒に作らないのなら、潔く帽子はやめてもいいやって思ってたくらいです。毎シーズン、「もしかしたら今年で最後かな」って思って作っていました。でも、会長も自分が引退した後のwica groceryをすごく心配して、一番弟子の人を紹介しようか、とか西の方へ腕を競い合った方がいるんだけど...とか、たくさん提案してくれたんです。会長のその思いに触れると「もう勝手にはやめられないな」と。私の気持ちというよりも、会長がここまで私を育ててくれたので、wica groceryを続けていくことが、会長への恩返しだと思って。なので今は製造先を増やして3カ所でお世話になっています。

 

とはいえ、wica groceryは帽子のブランドというより、「この人ともの作りをしたい」「何かを一緒に生み出したい」と思ったら、そこに情熱をかけて紹介していくブランドだと思っていて。だから、実はアイテム自体は何でもいいと思っているの。それで、今年から「お話会」を始めました。帽子を通じて会長から教わってきた人間性や人生とか、もっと深い部分のことが私にとっての大きな財産で、その部分を次の世代に伝えていけたらいいなと思って始めたんです。不思議な縁だなと思うんです。出会ってなかったら、こんな人生じゃなかったから。会長は、家族以上に深い縁のあった人なんだと思っています。

——もし会長が全く違うものを作る職人だったら、折原さんは今とは違うものを扱っていたかもしれませんね。

 

 

折原:本当にそう。会長は鼻歌を歌いながら、軽ーい感じで素敵なものをさらっと作っちゃうんだけど、実はものすごく高度な技術を使ってる。もう、こんな格好良い人いないでしょって思いますね。若い頃に出会っていたら、恋しちゃっていたかも(笑)。それくらい、ファンなの。

帽子はあってもなくてもいい。そこに感じた可能性

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インタビュー一覧

衝撃の出会い

工房に行けば、
デザインがそこに
ある

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素晴らしい
職人の技術を
伝え続けたい

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帽子はあっても
なくてもいい。
そこに感じた可能性

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新しいものを、
生み出すこと

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折原 陽子

wica grocery ディレクター

バンタンデザイン研究所にてバイイングを学び、自身のセレクトショップLamp,yuzuriを経て2015年にオリジナルブランドwica groceryをスタート。デザイン性と道具性のバランスを大切にしながら、地元の職人と共に「手直しをしながら育てていく帽子づくり」を行っている。

ブランドディレクターの顔の他、結婚・出産を経てその方らしく生きていくライフスタイルの提案や、スタイリング提案など活動の場を広げている。

 

​Instagram : https://www.instagram.com/wicagrocery/?locale=ja_JP

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​​wica grocery 帽子展

2025年 5月24日(土)〜 5月31日(土)

o p e n : 1 2 : 0 0 - 1 7 : 0 0

期間中休 27日(火),28日(水)

会場:器とギャラリー・ヨリフネ

神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101

器とギャラリー・ヨリフネ

横浜市神奈川区松本町3-22-2 ザ・ナカヤ101
Open : 12:00 - 17:00
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不定休

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