
wica grocery 折原陽子さん インタビュー
帽子を通して出会ったひとりの職人
ーーその技術・人生を伝え続けたい
聞き手・文 ヨリフネ・船寄真利
旅する帽子屋、wica groceryの折原陽子さん。
毎年、麦わら帽子のシーズンになると、全国各地を駆け回る。実は彼女自身は帽子職人ではないし、デザインの勉強をしたわけでもない。扱う帽子を作っているのは埼玉県春日部市で140年にわたり麦わら帽子を作り続けている田中帽子店だ。「こんな帽子は作れないか」とイメージを共有しながら、主に会長の田中行雄さんと対話を重ね、二人三脚で帽子作りに取り組んでいる。なぜ、彼女は帽子屋になったのか。彼女の扱う帽子の魅力とは何なのか。気になって話を聞いてみた。
編集:船寄洋之
photo : 船寄真利
Ⅳ
帽子はあってもなくてもいい。そこに感じた可能性

——理由は複合的だとおっしゃっていましたが、他に帽子を選んだ理由はありますか?
折原:帽子に可能性を感じていたように思います。自分が女性として生まれて、母になって、子育てがメインになってくると、つい自分を着飾ることが後回しになってきちゃう。
——わかります。鼻水とかつけられますし、汚れるから「なんでもいいや」と思いますよね。赤ちゃんのときは、そもそもお洒落しようって気力すらなかったかも。
折原:母になると自分の服はどうしても機能性を優先してしまいますよね。でも、それってすごくもったいないなって思いました。お洒落を楽しむのは何歳になってもできるし、むしろ歳を重ねた方が格好良い着こなしができる。いろんなお客様に麦わら帽子をかぶってもらったときに、それをすごく感じました。自分にぴったりの帽子を見つけたとき、みなさん目が輝いてすごく素敵な笑顔になるんです。次に来たときには、もうこなれた感じでかぶってくれていたりして。それが嬉しくって。帽子の持つ可能性みたいなものに自分がハマっていったんです。
——洋服は必ず着るけど、帽子はあってもなくてもコーディネートが完成しますよね。だからこそ、ぴったり合ったときのハマり方は、普通のカットソーやパンツとは違うというか、特別だし可能性が大きいアイテムのように思います。
折原:そう、より大きな可能性があると思います。洋服までは「なんとか綺麗にしとこう」って気を使えるんだけど、さらに帽子までとなると、ハードルが高く感じる人もいるかもしれない。でも、あってもなくてもいいものだからこそ、そこにたどり着けたとき、自分自身をより喜ばせてあげられる気がするんです。「自分を大事にしよう」っていう“セルフラブ”のモードに入っていくお手伝いが帽子にはできるなって。そこに可能性を感じましたし、そこを求める人が増える時代になるんじゃないかなって思ったんです。
——私も、子供を産んだあと、いかに自分を後回しにしているかに気づきました。だからこそ、子どもと一緒にいるときには使いづらい繊細なアクセサリーをつけたり、日除けだけじゃないファッションアイテムとしての帽子をかぶったりすることに、時間の特別さや、自分のために使うものがどれだけ心を震わせるかということを改めて感じています。子どもがいなくても、日々の仕事など頑張りすぎてしまう人が、今の時代とても多いのかなと思っていて、セルフラブが必要な方ってたくさんいらっしゃるのではと感じます。
折原:そう、リサーチをしたわけではないんだけど、直感でそう思いました。そして、自然と帽子屋さんになって、今がある。案外間違ってなかったなって感じます。
——帽子って、人によっては敷居が高いと感じられる方もいるかと思います。実は私もそのひとりだったのですが、「ファッションと道具のちょうど真ん中のようなもの」をイメージして作られていると伺って、その程よい素朴さを残しているおかげで、あまり抵抗感なく帽子を自分のファッションに取り入れることができました。wica groceryはそんなファーストステップを踏み出しやすい帽子のように思います。同じように感じている方が手を伸ばして、自分自身を喜ばせるお手伝いが私もできたら嬉しいですね。
新しいものを、生み出すこと


折原 陽子
wica grocery ディレクター
バンタンデザイン研究所にてバイイングを学び、自身のセレクトショップLamp,yuzuriを経て2015年にオリジナルブランドwica groceryをスタート。デザイン性と道具性のバランスを大切にしながら、地元の職人と共に「手直しをしながら育てていく帽子づくり」を行っている。
ブランドディレクターの顔の他、結婚・出産を経てその方らしく生きていくライフスタイルの提案や、スタイリング提案など活動の場を広げている。
Instagram : https://www.instagram.com/wicagrocery/?locale=ja_JP

wica grocery 帽子展
2025年 5月24日(土)〜 5月31日(土)
o p e n : 1 2 : 0 0 - 1 7 : 0 0
期間中休 27日(火),28日(水)
会場:器とギャラリー・ヨリフネ
神奈川県横浜市神奈川区松本町3−22−2 ザ・ナカヤ101